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集会案内

2022年9月4日日曜日13時半〜

ウトロ放火事件から見る社会からの「排除と孤立」

本シンポジウムはZoomウェビナーで配信します。参加を希望される方は、必ずこのフォームから事前に申し込みをお願いします。当日(9/4)の午前11時までには、いただいたメールアドレスに参加に必要な情報(ウェビナーの接続情報等)を送付いたします。


★申込み〆切:2022年9月2日(金)24:00まで

​★参加申請:https://forms.gle/8gDRzBDmBjRdm5ZY6

 

主催: 一般財団法人ウトロ民間基金財団

    京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策の推進を求める会

共催: 龍谷大学社会的孤立回復支援研究センター(SIRC)

​    グローバル地中海・同志社大学都市共生研究センター(MICCS)

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2022年9月24日土曜日14時〜

ヘイトスピーチ・ヘイトクライムをなくすための集い in 京都

 

会場参加(先着 20 人)、オンライン(zoom)参加(先着 100 人まで)とも事前申し込みが必要です。

★申し込み〆切 :9 月 23 日(金)24:00まで

★参加申請:https://forms.gle/nnoYvvwZr9AXBTRa6

 

共催: 京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策の推進を求める会 京都・東九条 CAN フォーラム 龍谷大学社会的孤立回復支援研究センター(SIRC)

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NEW!「ウトロ放火事件公判意見書」

(2022年6月23日公表)

▶️​ 意見書はこちらからダウンロードできます

 

 

【解題(板垣竜太)】 

 ここに公開するのは、京都地裁で審理が進められているウトロ放火事件の公判に際して、2022年5月31日に京都地方検察庁の検事に提出した「意見書」である。本件で被告人は、①2021年7月24日に在日本大韓民国民団愛知県本部および愛知韓国学園名古屋韓国学校に放火し、②その数日後に奈良県内の在日コリアン関連施設に放火し、③8月30日に京都府宇治市ウトロ地区の家屋に放火した。この意見書は、ウトロ住民の代理人をつとめている弁護団からの要請にもとづき、この一連の事件がヘイトクライムに他ならないことを担当検事に理解してもらうための一種のレクチャーとしてまとめたものである。

 本件は誰がどう見ても典型的なヘイトクライムであるが、問題は、日本の刑事司法がヘイトクライムをヘイトクライムとしてしっかり裁いたことが一度もない点にある。だからこそ本件をヘイトクライムとして裁いてもらうために意見書を提出することになったわけだが、実のところ刑事事件で意見書を提出することはあまり一般的なことではない。一部の被害者参加のケースを除き、一般に刑事裁判は裁判官、検察官、被告人(およびその弁護人)によって構成されている。刑事事件の被告人を支援する運動であれば、弁護人を通じて意見書を提出したりすることは可能だろうが、この事件では被告人こそが放火の容疑者である。今回は被害当事者が公判で意見陳述することができたものの、第三者が裁判官に意見書を提出することなどできない。一方、担当検事が本件をヘイトクライムとして裁くことにどれほど意欲的であるか、どれほどの理解と知識があるかも分からない。そこでウトロ住民の弁護団が、少しでも好条件をつくりだそうという努力の一環として、担当検事に意見書を提出することにしたものである。

 公判は第1回(2022年5月16日)、第2回(6月7日)、第3回(6月21日)の3回開かれた。第1回では検察官の冒頭陳述や証拠調べの最初の手続きがおこなわれ、第2回の期日に被告人に対する尋問があり、第3回に被害者の意見陳述を経て検察官の論告求刑をもって結審となった。実は意見書の提出は最初から決まっていたことではなかった。第1回公判の冒頭陳述を見て、検察官が本当にこれをヘイトクライムとして裁こうとしているのか不明瞭であったことを受けて、弁護団が急遽その提出を決めたのである。それも被告人尋問がある第2回期日よりも前には、検事が目を通しているのが理想的だとのことで、5月末提出というスケジュールとなった。私に依頼が来たのは5月18日のことなので、2週間足らずのあいだに本意見書をまとめることになった。授業期間中に慌ただしくまとめたものであるため、内容に深みがあまりなく、推敲も不足してしまっていることはご海容いただきたい。

 実は第27パラグラフで、被告人が逮捕されたときのヤフーニュースのコメント(いわゆる「ヤフコメ」)を複数引用して、その反応を分析した箇所がもともとあった。特に一部のヤフコメでは、放火という手段は非難しつつも被告人の主張には賛同しているとも見られるものがあり、それらを引用していた。しかし、在日コリアンに対する偏見から決して自由ではない検事がこれを読んだとき、ことばを尽くして一つ一つに反論をしておかないと、賛同している人々もいるという証拠として印象づけられてしまうという懸念があり、締切時間の関係もあって最終段階でばっさり削除した。注44で「〔 〕内は板垣の補足である」という一言を消し忘れているが、それがその痕跡である。

 さて、この「解題」を書いている前日(2022年6月21日)が第3回の期日であった。被害者3名(愛知民団から1名、ウトロから2名)の意見陳述があったあとに、検察官の論告求刑が読み上げられた。私はいつ「差別」やそれに類したことばが発せられるのか、メモを取りながらじっと聴いていたが、そのような表現が一切ないまま、懲役4年が求刑されて終わった。一般的な放火事件のフォーマットにしたがった論告の作文で、せいぜい「在日韓国人及びその関連団体に対して一方的に抱いていた嫌悪感」「偏見や思い込み」といった表現が用いられた程度であった。人種差別事件は個人的なものではありえないのに、検察官はこの事件を、被害面においても加害面においても、個人化して捉えてしまった。その意味では、残念ながら、本意見書は期待していたような有効活用がなされなかったと評価せざるを得ない。

 ところが、その後法廷でハプニングがあった。最後に裁判官から発言を促された被告人が、思わぬことを言い出したからである。被告人は、あらためて弁明しないと言いながらも、「最後に一言」として次のような趣旨の発言をおこなった(手元のメモによる復元)。――いま日本や世界で多くの罪のない人たち、困窮者たちが支援を受けられず見殺しにされている。その一方で、戦争の被害者だという一方的な理由で国民以上の支援を受けている人たちがいる(板垣注:在日コリアンのことを言いたいのだろうが、根拠のないデマである)。私のように差別、偏見、ヘイトクライムの感情を持っている人たちはいたるところに多くいる。仮に私を極刑で裁いたとしても、一個人の身勝手な事件だと部分的に切り取って終息させたとしても、今後いろいろな事件、さらに凶悪な事件が起こることが容易に想像できる。これまで日本の戦争犯罪もあって表現が抑圧されてきたが、これがいつまでも続くわけではない。今後、同様の、それ以上の事件が起き、そのときは命を失う人が出るかもしれない。この事件は単なる個人的な感情の問題ではない――以上のような内容だった。犯行声明ともいうべき内容で、私は背筋が凍る思いだった。ある意味では、検察官が問題を個人化したことに反発して、そうではないのだと堂々とヘイトクライム宣言をしたとも言える。

 判決言渡しの期日は2022年8月30日となった。裁判官が人種差別撤廃委員会に課せられた責務をしっかり認識し、被害者の思いを受け止め、画期的な判決を出してもらうことを強く願うのみである。

(2022年6月22日)

 緊急の呼びかけにも関わらず、そして会場周辺は吹雪という悪天候にも関わらず、会場参加200人。オンライン参加250人(うち韓国から20人)が参加してくれました。ありがとうございました。事前申し込みいただいた方々への限定配信(12月29日配信予定)と、一般公開用の動画映像(年明け公開予定)を準備しています。お待ちくださいませ。

 ヘイトクライムの根絶に向けて、それぞれの立ち位置でできることを進めていきましょう。ともにできることもあるかもしれません。ご連絡くださいませ。

 写真は登壇者の発表の様子と、会場参加のみなさんに書いていただいたメッセージを色紙に貼り、ウトロの住民に届けていただくために渡したときの写真です。
 来春開館するウトロ平和祈念館に、その場で66,849円の寄付金も頂戴しました。ありがとうございます。祈念館のホームページもご覧ください。https://www.utoro.jp/about

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ウトロ放火事件(2021年8月30日)を受けた会の行動

私たちはウトロでの放火事件を許さない!ヘイトクライムのない社会を!

2021年12月26日

 ウトロ地区での放火事件は、ヘイトスピーチとヘイトクライムが繰り返される社会に私たちが生きていることを、あらためて浮き彫りにしました。

 2016年に障害者差別解消法、ヘイトスピーチ解消法そして部落差別解消法が制定されました。これらは、日本の歴史上初めての差別を解消するための法律で、差別を許さない社会づくりを進めるための大きな一歩となりました。しかし、私たちの前にある現実はどうでしょうか。

 ヘイトクライムとは、皮膚の色、言語、宗教または信条、国籍または民族的または種族的出身、世系、年齢、障害、ジェンダー、性的指向・性自認等の属性を理由として、その集団またはその構成員に対して行われる犯罪です。かつてから日本では、朝鮮学校の学生が学生服のチマチョゴリを切られるなど、在日コリアンへのヘイトクライムがありました。2009年には京都朝鮮第一初級学校への襲撃事件が起こりました。2016年には相模原市の障害者施設に入所していた人たちに対する差別動機に基づく殺傷事件がありました。川崎市では数年にわたり外国人を排斥する街宣が行われ、共生の場になっている施設に脅迫状などが送られる事件が起きています。差別と排除を扇動するヘイトスピーチが街でもインターネットでも広まり、それに煽られた人たちがヘイトクライムを実行するに至っているのです。

 ヘイトクライムは単なる個人による偶発的な犯罪ではありません。社会的につくられた差別構造に起因するものです。現に、朝鮮の植民地支配の歴史に由来する在日コリアンへの偏見、見下し、蔑みなどの差別意識とそれに基づく不当な扱いが日本社会に根づき、今日にまで受け継がれています。そうした土壌がヘイトスピーチを生み、ヘイトスピーチは暴力と社会的排除を促す土台をつくり、ヘイトスピーチによってさらに強まった差別意識は在日コリアンが同じ人間であることを否定し、「目立ちたい」などという軽々しい理由で罪の意識なく犯罪が行われるに至るのです。

 ヘイトクライムは、個人の法益を侵害し、危険にさらすだけではありません。ヘイトクライムは、被害者が属するコミュニティや集団を狙って行われます。そのため、被害者が属するコミュニティに属する人たちは、直接の攻撃を受けずとも誰もが被害者になり得ます。つまり、ヘイトクライムは、特定の集団に対し、その生存権の否定、つまり対等な人間として生きる権利を否定します。そして、ヘイトクライムは、民主主義社会における根本基盤である、人々が対等で平等に生きることを否定します。それゆえ、ヘイトクライムは、個人にとってだけでなく、社会にとって危険な犯罪でもあるのです。

 だからこそ、ウトロ地区の放火事件を深刻に受け止め、本日ここに集った私たちは、ヘイトクライムの根絶を心より願いながら、以下のことを司法行政機関に求めます。

1 差別動機が疑われる今回の事件において、その動機を周到かつ適切に解明するとともに、ヘイトクライムの危険性に即した起訴ならびに求刑をおこなうことを求めます。

2 刑事裁判では、違法性および責任判断(量刑判断)において差別動機を考慮すること、そして刑事司法が差別解消に積極的に協力することを求めます。

3 人種差別撤廃条約など、日本が加入している人種差別撤廃のための国際条約を国内法で実効化することを求めます。

4 インターネット上の差別扇動などの違法情報に対し、積極的に対応することを求めます。

5 差別の防止・予防のために行政諸機関が相互にネットワークを形成することを求めます。

「ウトロでの放火事件を許さない!ヘイトクライムのない社会をめざす市民集会」参加者一同

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緊急集会 プログラム

2021.12.26​

14:00 開会あいさつ、諸注意

14:05 ウトロからの訴え  ウトロ民間基金財団より、南山城同胞生活センターより(火災現場とその後の映像を上映)、ウトロを守る会より

14:30 京都府・京都市に有効なヘイトスピーチ対策を求める会からの訴え  構造的レイシズムの克服課題、法制度の現状と課題

14:50 海外からオンライン中継  ウトロ出身の弁護士、ウトロ平和祈念館を支える市民の会(ビデオ映像)

15:10 連帯あいさつ

15:20 集会アピール文

15:30 終了

緊急集会 開催趣旨

2021.12.20​

 京都府宇治市ウトロ地区で2021年8月30日に火災が発生しました。住宅や倉庫など計7棟が焼け、地域の歴史を伝える資料が焼失しました。当初は失火とみられていましたが、京都府警は12月6日に放火の疑いで容疑者を逮捕し、いま捜査がなされています。この容疑者は、7月にも名古屋市の韓国民団や韓国学校の排水管に火をつけた疑いで10月に逮捕され、既に起訴されています。

 一部報道によると、これらの事件の容疑者は「注目を集めたくて火をつけた」という趣旨の供述をしているとのことです。本件は、朝鮮半島にルーツをもつ特定の民族集団に対する差別動機が非常に強く疑われる事件であり、そうであればこれは重大なヘイトクライム事件です。人命を危険にさらし、ウトロの歴史を証明するかけがえのないものを一瞬にして奪い去った、卑劣なヘイトクライムです。司法行政機関は事件の動機を周到に解明し、ヘイトクライムの危険性に即して起訴すべきであり、刑事司法はヘイトクライム根絶をめざして積極的に対応すべきです。

 2009年には京都朝鮮第一初級学校への襲撃事件が起こりました。2016年には相模原市の障害者施設に入所していた人など26人が殺傷される事件がありました。川崎市では数年にわたり外国人排斥をあおる街宣が行われ、共生の場になっている施設に脅迫状などが送られる事件が起きています。ヘイトスピーチが広がる社会のなかで、ヘイトクライムが実行されるに至っているのです。

 ウトロ放火事件を前にして、わたしたちの社会が沈黙することはヘイトクライムの被害者を孤立させ差別に加担することを意味します。捜査の進展が報じられないなか、放火事件を許さずヘイトクライムのない社会をめざす声を上げなければならないと考え、緊急集会を企画しました。

 本集会では、来春開館のウトロ平和祈念館を運営する一般財団法人ウトロ民間基金財団ほか、ウトロで活動する団体からの訴えを受け、ヘイトクライム根絶をめざす会の主張を発信します。また、ウトロ出身の弁護士や、韓国の支援団体からも、メッセージを発信していただきます。

 会場は700人規模の部屋を借りました。感染対策の制約上、定員は200人強です。緊急の呼びかけです。集まれる方は会場に集まってください。被害者を孤立させないという思いを会場でともに示したいと考えています。この社会の危機的な状況を放置せず、ヘイトスピーチを許さない、ヘイトクライムを断罪するという、強いメッセージをともに世界に届けましょう。

 ウトロとは・・・1940年から日本政府が推進した京都飛行場建設に動員された在日朝鮮人労働者たちの飯場跡に形成された集落。戦後もウトロ地区に多くの朝鮮人たちが居住するが、生活インフラが整備されておらず深刻な人権問題として日本の市民とウトロの人々とが協働し生活改善を求めてきた。1988年、住民が知らない間にウトロの土地が転売されている事実が明らかになり、事態は土地の明け渡しをめぐる訴訟へと発展する。住民たちは敗訴し日本の司法によって「不法占拠者」にさせられた。その後も「まちづくりプラン」を提案したり国連社会権規約委員会が差別是正勧告を出したり、韓国で市民募金が広がるなどの支援運動が広がる。日本社会から「置き去りにされた」朝鮮人のまちは困難に直面しながらも、ウトロに寄り添ってきた日本市民、在日コリアン、そして韓国市民が協力し、ウトロの歴史と居住権を守ってきた。戦争から生まれたウトロという地域を守り抜いた人々の姿を通じて、人権と平和の大切さ、共に生きることの意味を伝える場所として、来春「ウトロ平和祈念館」がオープンする。

ヘイトクライム根絶をめざす声明文 ~ウトロ地区の放火事件を受けて~

2021年12月15日
 

1 今年8月30日、京都府宇治市のウトロ地区で、住宅や倉庫など計7棟が焼け、地域の歴史を伝える資料が焼失しました。当初、建物の老朽化などが原因での失火と見られていましたが、12月6日、放火の疑いで容疑者が逮捕されました(非現住建造物放火罪(刑法109条))。同人は、7月、名古屋市の韓国民団(在日本大韓民国民団)愛知県本部と隣の名古屋韓国学校の排水管に火を付けて壊し、器物損壊の疑いで(刑法261条)、すでに10月に逮捕・起訴されています。

 ウトロ地区では、来年2022年4月には地域の歴史を伝える平和祈念館が開館する予定です。その際に展示が計画されていた倉庫に保管されていた資料などおよそ40点が火事で焼けました。

 ウトロ地区は、第二次世界大戦中に日本軍の戦争遂行のために集められた朝鮮人らが、戦後同地に住み続け、形成された在日朝鮮人集住地区です。ウトロ住民は、差別されながら幾多の困難を抱えて生き続けてきました。その意味では、ウトロ地区そのものが日本の朝鮮植民地支配と第二次世界大戦、戦後の在日朝鮮人の苦悩の歴史を今も語り続けています。ウトロでの放火は、7棟の家屋が焼失しただけでも大きな被害をもたらしましたが、それに加え戦前・戦後のウトロ地区とそこに生きてきた人々の歴史を証明するかけがえのないものを一瞬にして奪い去ったのです。

 

2 容疑者は、民族団体やウトロ地区など、朝鮮半島にルーツをもつ特定の民族集団を狙って、放火行為などに及んだとされます。これが事実であれば、容疑者のしたことは、ヘイトクライムに該当します。ヘイトクライムとは、皮膚の色、言語、宗教または信条、国籍または民族的または種族的出身、世系、年齢、障害、ジェンダー、性的指向・性自認等の属性を理由として、その集団又はその構成員に対して行われる犯罪です。記憶に新しいところでは、相模原市の障害者施設に入所していた人たちに対する差別動機に基づく殺傷事件(2016年)がありましたし、アメリカ合衆国での黒人に対する差別的動機に基づく警察の行為によるジョージ・フロイドさんの死亡事件等が起こり、それをきっかけにBlack Lives Matter運動が世界的に広がったことによっても、よく知られています(2020年)。しかしそれは氷山の一角でしかありません。在日朝鮮人への差別動機に基づく不当な取り扱いや犯罪はかつてからあり、その中には、司法の場で対応されなかったものも多数あります。近年では、ヘイトスピーチが蔓延し、社会問題となりました。

 ヘイトクライムは、単なる個人の偶発的な犯罪ではありません。朝鮮の植民地支配に由来する朝鮮の人々への偏見、見下し、蔑みなどの差別意識とそれにもとづく不当な扱いが社会に根づき、今日にまで受け継がれてしまった一つの結果です。そうした土壌の一つの現れがヘイトスピーチ(インターネット上のものも含む)です。ヘイトスピーチは、単に「不快」な発言だというレベルの問題ではなく、さらなる物理的な暴力と社会的排除を促す土台となります。ヘイトスピーチによってさらに強まった差別意識により、朝鮮の人々に対する敵視、偏見そして憎悪を増長させ、同じ人間であることを否定して、罪の意識なく犯罪が行われてしまうにいたるのです。こうしてヘイトクライムが引きおこされるのであり、その意味において、これは社会が生み出した犯罪です。

 被害を受けた側に目を向けても、ヘイトクライムは個別具体的な事件にとどまるものではありません。ヘイトクライムは、個人の法益を侵害・危険にさらすだけではなく、日本で生活する朝鮮人の生存権の否定、つまり対等な人間として生きる権利を否定します。ヘイトクライムは、単に一個人に向けられるものではなく、被害者が属するコミュニティや集団を狙って行われるものです。そのため、被害者が属するコミュニティに属する人たちは、誰もが被害者になり得ます。つまりヘイトクライムは、朝鮮の人々に対して、この社会では排除されるべき対象であるというメッセージを送るものです。したがってヘイトクライムは、朝鮮の人々とそのコミュニティにとっては、直接の攻撃を受けずとも、それ自体が脅迫的行為となります。ヘイトクライムを許容する社会では、特定の属性を持つ人びとが、人格権・生存権を否定されながら生き続けざるを得ない状況に置かれることになります。ヘイトクライムが一度かぎりのものであっても、それがもたらすダメージは、それほどに広く深いものです。

 しかも、ヘイトクライムは、特定の属性をもつ人々を集団的に排除することを求めることから、私たちの社会の民主主義を切り崩すことにもなります。ヘイトクライムは、民主主義社会における根本基盤である対等で平等に生きることを否定するのです。それゆえ、ヘイトクライムは、個人にとってだけでなく、社会にとって危険な犯罪でもあります。

 

3 国連の自由権規約20条2項、人種差別撤廃条約4条は、条約締約国に対して人種差別動機に基づく犯罪への対応を求めています。また、人種差別撤廃委員会「市民でない者に対する差別に関する一般的勧告30」(2004年8月5日第65会期採択A/59/18 pp.93-97)では、条約締約国に対して「人種的動機または目的をもって犯罪をおこなったことが、より厳格な刑罰を求める刑の加重事由となるとする規定を刑事法の中に導入すること」(22項)を勧告しています。しかし、日本政府と立法機関は、これらに十分対応してきませんでした。そのため、刑事司法の場において、差別動機が解明の対象になってこなかったのです。そのため差別的動機や背景が明らかにならず、あったことがなかったことにされ、真実が矮小化されてしまうのです。

 ヘイトスピーチを犯罪化するに際しては、しばしば対立利益としての表現の自由が問題になり、日本が人種差別撤廃条約4条a・b項を留保して批准したことが引き合いに出されます。しかし、ヘイトクライムに対して厳しい態度で臨むことは、表現の自由との対立がありませんから、先述の留保も問題になりません。表現の自由を重視してヘイトスピーチ規制に慎重であるアメリカ合衆国においても、ヘイトクライムの加重処罰は立法されており、頻繁に適用されています。ヘイトクライム対策に対して及び腰になる必要はありません。

 日本ではようやく2016年にヘイトスピーチ解消法が制定されました。これを機に警察庁が出した通達「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消法に向けた取組の推進に関する法律の施行について」(2016年6月3日)において、「いわゆるヘイトスピーチといわれる言動やこれに伴う活動について違法行為を認知した際には厳正に対処するなどにより、不当な差別的言動の解消に向けた取組に寄与されたい」と示しています。本通達の趣旨は、ヘイトスピーチによって扇動された人々による犯罪(ヘイトクライム)への対処も含むことは多言を必要としません。人種差別事件があっても何もしないという態度は、人種差別に加担しているのと同じです。同様に、国家が人種差別的動機をもつ犯罪について何ら手当をしないということは、国家が人種差別的動機を許容しているのと同じです。

 

私たちは、このウトロ地区の放火事件を深刻に受け止め、ヘイトクライムを根絶するために、以下のことを司法行政機関に求めます。

 

1 人種差別撤廃条約等、日本国が加入している人種差別撤廃のための国際諸条約について、国内法上の実効化を求めます。

 

2 差別的動機が疑われる事件に際して、差別的動機を周到に解明するとともに、ヘイトクライムの危険性に即した起訴並び求刑をおこなうことを求めます。

 これには、警察ならび検察が差別的動機を適切に解明すること、これを刑事裁判の場で明らかにすること、差別的動機を違法性及び責任判断(量刑判断)において考慮すること、刑事司法が差別解消に積極的に協力することを含みます。

 

3 インターネット上の差別扇動などの違法情報に対し、積極的に対応することを求めます。

 これには、差別扇動を直接おこなっているサイトへの対応だけでなく、差別扇動サイトを支える広告企業などへの対応、さらには個別のSNSへの対応を含みます。

 

4 差別の防止・予防のために、行政諸機関間におけるネットワーク形成を求めます。

 

以 上
 

(参考) 合同発表声明

ウトロ地区での放火容疑者逮捕を受けて

2021年12月15日

一般財団法人ウトロ民間基金財団
 

 8月30日にウトロ地区で倉庫、民家など7棟が被害を受ける火災が起こりました。当初は建物の老朽化による失火と見られていましたが、12月6日に京都府警は放火の疑いで奈良県在住の22歳男性を逮捕したことを発表しました。同容疑者は名古屋市内にある在日本大韓民国民団愛知県本部と隣接する名古屋韓国学校の排水管にも放火した容疑で10月に逮捕・起訴されています。

 今回の事件はウトロの住宅が立ち並ぶ地区での放火で、住民の生命と財産を脅かす重大犯罪であり、決して許されるものではありません。また一連の事件がすべて在日コリアンの関連施設であることからも特定の民族に対する憎悪にもとづくヘイトクライムである可能性が高いと思われます。もしそうであれば、地区住民のみならず在日コリアンたちの平穏な生活を破壊し不安に貶める極めて深刻な問題であると言わざるをえません。

二度とこのような事件が起こらないように警察には犯行動機を含む事件の全容解明のための徹底した捜査を求めるとともに、日本政府・自治体がヘイトクライムを許さないという姿勢を明確にしていただきたいと思います。

 朝鮮半島が日本の植民地となっていた時代、ウトロには飛行場建設が計画され、多くの朝鮮人が建設労働者として集められました。戦後、ウトロの土地が地上げ会社に転売れたことにより、一方的に立ち退きを迫られることになった住民は厳しい差別と困難に向き合いながらも生活と権利を守るために自ら立ち上がり声をあげました。

 その声が日本市民、韓国市民に伝わって支援の輪が広がり、ウトロの土地を買い取り、そこに日本の行政が住環境整備のための集合住宅建設を進め、ウトロの新しいまちづくりが進められました。

 こうしたウトロの歴史を伝える住民たちの思いが込められた立て看板など、貴重な資料が今回の放火で焼失することとなりました。建物の被害のみならず、ウトロ住民の伝えるべき記憶と記録が失われてしまうという取り返しのつかない被害が生じています。

 2022年4月、ウトロには「ウトロ平和祈念館」が開館します。ウトロは、困難に直面しながら声を上げた住民たちと、ウトロと向き合ってきた日本市民、在日コリアン、そして韓国市民が協力して権利と暮らしを守った歴史をもつところです。この歴史は日本と朝鮮半島が互いに理解を深めあい、力を合わせることで新しい社会を築いていけることを示してくれています。互いが出会い、学びあうことで憎悪の連鎖を断ち切り、共に生きていく関係を築いていく、それこそが「ウトロ平和祈念館」の意義だと言えるでしょう。今回の放火事件のような差別と憎悪が向けられることのない社会のためにも「ウトロ平和祈念館」をぜひ多くの方々に活用していただきたいと思います。

 憎しみの連鎖を断ち切るためには「差別」に対して厳しい姿勢で臨むと同時に、互いに出会い、学びあうことが不可欠です。そうした観点で日本の司法、行政には今回の放火事件に厳正な姿勢で対応することを求めるとともに、市民の皆様の「ウトロ平和祈念館」への関心とご支援を寄せてくださることをお願いする次第です。

以 上

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